コンピューター上に意識は作れるのか?

「シンギュラリティは近い」の著者で未来科学者のレイ・カーツワイル氏は2045年に人工知能が全人類の知性を超えるシンギュラリティが来る、と予測しました。根拠は指数関数的にコンピュータの計算能力が向上し、人類全体の知性を超えるからだ、としています。これでいくと、一人の人間の知性を超えるのは2020年あたりになると思われます。しかし、単に計算能力が上がれば、全ての問題が解決するのでしょうか?確かに計算能力が向上すれば、世の中にある膨大なデータからの学習量が増え、知見により正しい答えを導き出す精度は限りなく上がっていくでしょう。

しかし、コンピュータが意識を持たなければ、「自己とはなにか」を仮想世界のモデルとして持てないため、自己進化を目的とした自己改変は起きないと考えています。そもそも人間がどのようにして意識や自我を持つのかはまだ解明されていないのです。1990年にヒトゲノム・プロジェクトがスタートして、最初の人の全遺伝子の解析が終わるまで、13年の歳月と27億ドルの研究費が費やされました。2003年には人間の遺伝子がもつ4種類の塩基対の配列約30億個をすべて解明したのです。その後、計算能力の向上によって、今や人一人のゲノム解析を行うのはわずか1日間、100ドルで実施することができます。

人間の脳は100億個のニューロンからなっています。また、一つのニューロンから神経細胞が伸びて他の神経細胞とのやりとりをするためのヒト・コネクト-ムは100兆個ある、とされています。これらのヒト・コネクトームの動きがいずれ解明されれば、これをシミュレーションすることにより、意識をもった人工知能を作ることができるかもしれません。

しかし、人間の脳は単独で存在するわけではなく、身体性をもっています。他の臓器とも繋がりをもっているのです。置かれた環境から得られるフィードバックを五感という形で脳に送り、脳内に現実の世界とは別物の仮想の世界を作り出す、と考えられます。この世界は外界から影響を受ける身体と連携しながら、喜び、怒りや恐れなどの感情や自己保存、増殖などの欲求、自我、意識を生み出すと考えられます。

コンピュータが人間を超えるためには、人間の脳が本来備える意識や意志がコンピュータ上に実装されなければならないでしょう。人間の脳の研究が進んで、自己防衛本能や繁殖本能なども、コンピュータ内でモデル化され、シミュレーションするのは非常に難しい作業です。オバマ政権時代にアメリカ政府は脳の研究に政府の予算をつけるプロジェクトを開始しました。脳の解明が進んでいけば、リバースエンジニアリングにより神経に流れる電気信号をシミュレートできるかもしれません。また、人間の脳は体とつながっており、脳との情報交換の方法として、微弱な電気信号が流れる神経系のみならず、臓器間で血液を通していろいろなメッセージ物質のやりとりが行われているということがわかっています。

これらの仕組みも人工知能のモデル内に組み込んでいく必要がありそうです。また、アボトーシス(遺伝子に組み込まれた細胞死) と同様に、人間に必ずある死や寿命の仕組み、環境に不適合の場合に淘汰されるような仕組みを最後の安全弁として組み込む必要があるかもしれません。逆にこれができれば、人間の脳から出る信号をブレイン・ネットワークを通じてアバターであるロボットと繋いで、現実世界のフィードバックを得たり、生身の身体を人工知能に繋いだりすることができるようになるかもしれません。

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